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あやめ
僕たちのいたみのようにふりそそぐ
あやめいろの夕焼けのなかで
僕の亡骸を抱きあげてほしい
ひまわりのかげのゆれる
階段を
麦わら帽子のあなたが
駈けてゆく
ゆっくりと 旧くなってゆく
世界で
ゆっくりと 小さくなってゆく
あなたを
いつまでも見上げていた
ああ 夏のひざしのなかで
あなたの影にだけ雪が降る
あなたがとおる道には
足跡もない雪が
残されてゆくのだった
僕たちの幼年期のように
それは
誰もふれられないままに
とけ消えてゆくのだ
……透きとおった水に
うつる小さな面影は
ゆうやみに燃やされ
あなたの指のあいだに
いちまいの写真が落ちてくる
姉さん
僕は何を忘れ
あなたは何を思い出したのか
ひまわりのゆれていた階段も
ほどけてゆく麦わら帽子も
あやめいろのゆうやけも
真っ白にそまってゆく
夏は音をうしなって
ふうせんのように
あおぞらに消え
あなただけが
笑っていた
途切れた
時間の
中で
…
とむらわれたひかりのなかに
とらわれて
あなたは歩いていった
僕の瞳のなかは
花でいっぱい
とあなたはいった
あなたはいなかった
あなたはいかなかった
ああ……
吹雪のなかで
あなたは笑っている
僕の右手は
黒い月をつかみ
それはゆっくりと
地上を切り裂いてゆく
あふれでた青空を
あなたは飲み込む
胸のなかで
真っ赤にそめあげるために
列車の窓から
その空を指さす僕に
頬をよせ
あなたはささやく
死の影で遊ぼう
この先に
あなたの愛した
ひとらはいる
いとしい凶器を
手渡すために
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