創刊の辞
言葉が原野とすれば、詩は切り開かれた一つの道である。そして歴史は、道を照らす光である。
言葉の原野は踏みしだかれ、その足跡が詩になる。だが、それが詩なのか、ただの痕跡なのか、それとも何もなかったのか――そのことを知るためには、原野はあまりに暗い。言葉は、言葉だけではただの記号にすぎない。歴史という「光」に照らされて、初めて言葉という原野は、詩という道は、私たちの前にすがたを見せる。
足元の見えない場所を歩んでゆくのも、決して無駄ではない。やがて歴史の光は、こちらに射し込むかもしれないのだから。
たどたどしい足跡を原野に記すこと――それが詩人の使命だ。その道に光をあてること、その言葉を必要とする時代を到来させること――それが批評家の使命だ。私たちはそれを実行するだろう。
ここに私たちは、学術叢書『実存文学』を創刊する。本叢書は歴史的資料を発掘・保存し、実存主義の流れを跡づけるとともに、優れた文芸作品を掲載し、「いま・ここ」の痕跡を刻み込む。
ポストモダニズムが刻印した「終わり」が終わり、しかし何も始まらない……いま私たちは、空白のなかに立っている。この場所に、新たな「始まり」を私たちは刻みつけよう。
いかなる現代思想にも、私たちは与しない。半世紀ものあいだ歴史の底に眠っていた、実存主義をよみがえらせること――もう一度世界に意味を回復させることが、私たちの目的である。
いつからか私たちは、喪失を自由と思い込み、大切なものを奪われていった――血は不幸を感じているのに、心に幸福を詰め込まれて。
永遠を、永遠への意志を失った痛みを抱えながら、詩という愛しい凶器を手に、私たちは歩み出す。歴史の死を、人間の死を、文学の死をまことしやかに語る思想家たちを置き去りにして。
これは新たなる「始原」への旅であり、私たちはそこで、歴史という水鏡を覗き込むだろう。そして、忘れられた自己の面影を掬い出すだろう。
水子のように捨てられた実存を、私たちは抱き上げる。そして彼の願いを聞き入れよう――地上に美しい傷痕をつけることを。